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悲情城市

 「悲情城市」 製作:1989年

    Hizyozyosi1          監督:侯孝賢(ホウ・シャオシエン)
  脚本:呉念眞(ウー・ニエンジェン)
     朱天文(ジュー・ティエンウェン)
  撮影:陳懐恩(チェン・ホアイエン)
  音楽プロデュース:立川直樹
             張弘毅(ジャン・ホンイー)
  作曲演奏:SENS
  キャスト:梁朝偉(トニー・レオン)
        辛樹芬(シン・シューフェン)
                     李天禄(リー・ティエンルー)
                    陳松勇(チェン・ソンヨン)
                   高捷(カオ・ジエ)

  *1989年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞グランプリ受賞

映画館で観た後にわざわざビデオを購入した数少ない1本。
寝転んで観ていても、いつのまにか正座して観てしまっている作品でした。

あらすじ
物語は1945年日本の敗戦で台湾が日本の統治から解かれたところから始まります。
港町・基隆、林家の長老と4人の息子たち、そしてその家族や友人たち・・・
戦争が終わっても大陸からの外省人と台湾の本省人の対立が起こり、否応無く巻き込まれていきます。
激動の台湾を背景に悲劇に見舞われながらも静かに強く生きぬく人々の物語です。

日本が敗戦まで台湾を51年も統治していたことをこの映画で初めて知りました。
あきれるほど近代の歴史について知らないことを恥ずかしく思いました。
戦時中でも市民レベルでは交流があり、心を通わせていた様子も描かれていてホッとし救われる思いがありました。
外省人と本省人の対立による1947年の2.28事件については、この映画が公開される頃までは台湾でも声高に話されることはなかった、と確か監督がインタビューで答えていた記憶が残っています。

四男の文清(レオン)は耳が不自由ですが、友人の妹の寛美(辛樹芬)と心を通わせるシーンがあります。
日本の家屋のような文清の部屋、友人たちが談論風発、政治を論じている脇で二人は「ローレライ」のレコードをかけています。
ローレライの伝説について、そして彼が子供の頃に耳が不自由になったことなど筆談を交わす二人の世界がとても静かで印象的でした。
どんなラブシーンよりも胸を打つシーンでした。

今回、意外に印象的だったのは長男の文雄(陳松勇)。
商売をしていてもやくざのようです。
父親の長老が、自分はやくざで日本軍からみんなを守った云々のセリフがありました。
彼は強面で賭博をしたりしますが、戦争から戻らない二男、戻ったものの廃人同様の三男、そして耳の不自由な四男のことを常に気にかけています。
その彼も身内の絡むトラブルにあっけなく命を落としてしまいます。

その長男の葬儀のシーン。ずっと印象に残っていたのに、今回観て驚いたのはとても短いワンシーンだったこと、それもほとんど絵が動かないものでした。
印象とシーンの長さは関係が無いようです。
文雄の葬式シーンと、文清と寛美の結婚式シーンが風景を挟んで続きます。
その後にお腹の大きな寛美の買い物シーン、その次には小さな子供が寛美の傍を動き回っています。
突然シーンが変わるけれども、いつも風景がワンクッション入っていて違和感はありません。
速い展開なのにとてもゆったりとしている感覚さえします。
そういえば、小津作品を思わせるシーンも見え隠れしています。

文清は政治活動に連座しているとして投獄されます。
同室の二人が呼び出されて出て行く準備をしている(画面には映っていない)方角を不安気に見上げる文清の表情を異様なほど長く映しているシーンがあります。
牢の入り口が文清だけを切り取って見せています。
その後、まもなく2発の銃声が聴こえることになります。
ラストの大家族での食事シーンでも、手前の台所が暗くて、戸口で切り取られた明るい食卓の長老たちが余計に印象深く浮き上がってきます。

ラスト、駅のホームで逃げる場所も考えられず呆然とたたずむ文清たち親子3人。
誠実に生きているのに歴史に翻弄されてしまう人たちの姿が切なく胸にせまります。
覚悟を決めて3人で正装をして写真を撮り、その後、文清は再び逮捕されて行方がわからなくなります。
そして、大家族の食事シーンへ・・・。

この作品で印象が強いのは食事のシーンの多さかもしれません。
そして、部屋を歩き回る音、床の音がいつも耳に残ります。
人はどんなに悲しくても、一人一人欠けていってもそれを越えて生きていかなければなりません。
そういうことなのでしょう。
大家族の食事風景は、立っておかわりをする人、台所へ立つ人と活気があってそれでも生きていくという強かさを感じさせます。

「劇終」となっても、黒い画面でしばらく音楽が続きます。
作曲・演奏はSENS。
彼等を知ったのはこの作品が最初です。
楽器は何かはわかりませんが、スケールが大きくて胸に浸み入るような旋律が印象的です。
この後のNHK「柳橋慕情」(若村麻由美主演・山本周五郎原作)も素晴らしかったですし、韓国ドラマ「美しき日々」でも使用されていた曲も爽やかで素敵なものでした。
独特な世界を持つ音楽です。

侯孝賢監督の作品を初めて観たのは「童年往事~時の流れ」でした。
確か、自伝的要素があったとか・・・。
たまたま教育テレビで何だか暗い印象があったのに最後まで引き込まれて観た映画でした。
まず家屋が日本的なことに魅かれました。
描かれている内容は、少年が主人公で淡々として日々が過ぎていき、親子や兄弟のふれあいや会話も静かなものでした。
考えてみれば、家族がいつも笑ったり泣いたりするのはドラマの世界のこと。
現実の生活なんてもっと淡々として過ぎていくものでしょう。
映画の中で、確か両親が相次いで亡くなり、おばあさんの死まで看取るシーンがあったような気がします。
それも淡々と・・・。
だからこそ、余計に現実を見る思いで胸にせまってくるものがありました。
ずっと印象に残っているのは、いつも木が揺れていたこと。
意識してそう見せているのか、私があまりの静けさにそこへばかり目が向いてしまっていたのか。
監督の作品は、この後「冬冬の夏休み」「恋恋風塵」を観ています。
どちらも、日本の数十年前を思い出させる懐かしくも切ない思いが湧いてくる作品でした。
「冬冬の夏休み」の小さな少年の日常や「恋恋風塵」の初恋、と描かれている内容は愛おしい小品という雰囲気の作品ですが、「悲情城市」はちょっと違ってスケールが大きく、それまでの作品の集大成という感じなのでしょうか。

恋恋風塵 恋恋風塵
呉念眞 朱天文

悲情城市 ホウ・シャオシエン監督 『百年恋歌』 童年往事 時の流れ フリッツ・ラング コレクション/クリティカル・エディション ドクトル・マブゼ カメレオンマン
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