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黄昏

  「黄昏」  製作:1981年/アメリカ

tasogare 監督:マーク・ライデル
撮影:ビリー・ウイリアムス
原作・脚色:アーネスト・トンプソン
音楽:デイブ・グルーシン(作曲・ピアノ)
キャスト:
   ヘンリー・フォンダ(ノーマン)
    キャサリン・ヘップバーン(エセル)
   ジェーン・フォンダ(チェルシー)
   ダグ・マッケオン(ビリー)
   ダブニー・コールマン(ビル)

* 第54回アカデミー賞
        主演男優・女優賞 受賞
* 第39回ゴールデングローブ賞
    作品・主演男優・女優賞 受賞

今観たらどんな感慨を持つのだろうかと思い、選んでみました。

あらすじ・・・
80歳を迎える夏、ノーマン元教授(H・フォンダ)は妻エセル(K・ヘップバーン)と湖のほとりにある別荘で過ごします。
そこに、長い間遠ざかっていた娘のチェルシー(J・フォンダ)が婚約者ビルとその息子を連れて訪ねてきます。
そして、父娘の間の溝は埋まらないままにチェルシーは婚約者と二人でヨーロッパへ旅立ちます。
預けられた息子ビリーとノーマンの間のぎこちなさも、エセルのおかげとお互いに釣り好きということもあって少しずつ消えていきます。
そして、チェルシーが戻ってきます。

この作品はJ・フォンダが父親H・フォンダのために企画し、アカデミー賞を受賞させたという有名なエピソードがあります。
当時、父親に代わってトロフィーをもらい、病床の彼と一緒に笑っている写真を見ました。
彼ら父娘も、映画のように長い確執があったことは有名な話です。
アメリカの良心の代表のように言われた彼も家庭ではかなり問題があったようで、弟
ピーター・フォンダと二人でそんな父親に長い間反抗していたようです。
年月はそれをも氷解させるのですね。
親が年老い、子供が大人になるということでしょうか。

H・フォンダは手足が長く、知性的で素敵な俳優でした。
「荒野の決闘」(1946年)で、テラスで椅子に腰掛けて柱に足をのせるシーンがありましたが、西部劇にしては静かな印象が強い中で特に印象に残っています。
寡黙で知性的というイメージが強いですね。
この「黄昏」では、なぜか老いた彼は娘のJ・フォンダに似てきてしまっているなあ、と
感じました。
「十二人に怒れる男」(1957年)は彼の作品で一番気に入っています。
「悲情城市」とともに、横になって観ていてもいつのまにか正座して観てしまっている
作品です。
彼を観ると、つい子供の頃に亡くなった父親を思い出します。
似ているといっても、無口で顔が細面だったことだけですが・・・。

K・ヘップバーンは「旅情」(1955年)でしょうか。
オールド・ミス(死語!)が一人でイタリア旅行中に恋をする話です。
当時私も若かったせいか、あまり内容に良い感じを受けませんでした。
“スパゲッティ(他の食べ物?)を食べたくても・・・”というセリフだったか記憶は曖昧ですが、要するに“食べたいものがなければ出されたもので我慢しなさい”(かなり乱暴な表現です)と口説くイタリア男が納得できませんでした。
ヒロインはそれに乗ってひとときの恋をするわけですが・・・。
彼女の寂しさが伝わってきましたし、その後の彼女の輝きが切なかったものですから
一番印象に残ってしまった作品です。
すでにH・フォンダもK・ヘップバーンも亡くなってしまいました。
名前も作品も永遠に残っていく名優です。

J・フォンダは父親への反発もあってか、反戦運動など常に主張する女優さんでした。
弟のピーター・フォンダも俳優として「イージー・ライダー」(1969年)、監督として「さすらいのカーボーイ」(1971年)はかなり評価を受けていたのですが、その後の消息を私は知りません。
お姉さんよりおとなしめな印象があってファンでした。

オープニング、夕日に輝く湖やアビの映像にディブ・グルーシンのピアノ曲が流れます。
これだけで、もう泣けそうになります。
穏やかで切なくて、それでいて静かな希望が見え隠れするような綺麗な音楽です。
映画全編に流れていて、この曲の力は大きいと思います。

ノーマンは80歳を迎えるということもあって、時々物忘れをして老いに不安を感じ常に死を意識していますが、エセルの方は60代で明るくて前向きです。
小さなことに新鮮な喜びを感じるエセルがチャーミングです。
今回はエセルとビリー(13歳)の表情に注目していました。
父と娘、夫と孫のような少年との間にたって、いつも細やかな心遣いで明るく接していくエセル・・・。
子供の頃を持ち出しては父親を非難する娘を抱きしめながら、前向きに考えるように諭すエセルが素敵です。

最初は、自分は厄介者だと感じてしまうビリーも二人と関わっていくうちに変わっていきます。
度々取り乱すノーマンを見つめる目が大人になっていくのを感じます。
“死ぬのが怖いの?”と尋ねる彼は思いやりに満ちていました。
彼が湖でモーターボートを走らせるシーンは、唯一若さが爆発するシーンでした。
登場人物は彼以外、中高年です。
モーターボートが湖を丸く疾走するところを俯瞰で撮影したシーンに、明るく軽快な音楽が重なり、彼の解放感と限りない未来が表現されていて一番印象に残るシーンでした。

いつも明るく前向きなエセルですが、終盤取り乱すシーンがあります。
娘と和解しビリーも去って、二人も別荘を去る日、ノーマンが倒れます。
このまま亡くなってしまうのでは、と半狂乱となるエセルに“もう、大丈夫なようだ”と言うノーマンが笑わせながらホッとさせます。
このシーンは、人間いつかは必ず死ぬのだということ、この夫婦はその時までより強く寄り添って生きていくのだということが伝わってくるシーンでした。
この後、紅葉の湖を寄り添って眺めるシーンで終わります。

様々な重荷や摩擦を少しずつ取り払って、穏やかな老後そして死を迎えられたら幸せなのでしょうね。
現実には難しいでしょうが・・・。

サウンドトラック盤レコードを持っていますが、珍しいほどセリフ主体のものです。
これから、数十年ぶりに聴いてみようと思っています。

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