鉄塔 武蔵野線
「鉄塔 武蔵野線」 製作:1997年/製作委員会
監督・脚本・編集:長尾直樹
原作:銀林みのる
製作: 岩沢清、井上弘道、長尾直樹、岡本東郎
主題歌: 「SAJA DREAM」おおたか静流(アルバム「LOVETUNE」収録)
撮影監督:渡部眞
キャスト:伊藤淳史(環見晴)
内山眞人(磨珠枝暁)
菅原大吉(環晴男)
麻生祐未(環真名子)
田口トモロヲ(鉄塔巡視員)
塩野谷正幸(変電所作業員)
★一言コメント★
鉄塔線を見る度に思い出す映画です。
★あらすじ★
小学6年生の見晴(伊藤淳史)は両親の離婚に伴い、2学期から母(麻生祐未)の実家のある長崎に引っ越すことになっていました。
夏休みのある日、見晴は近所の鉄塔に「武蔵野線 71」と表記されていることに気が付きます。
幼い頃父(菅原大吉)によく連れていってもらい、鉄塔の絵ばかり描いていた見晴は小学4年生の親友暁(内山眞人)と一緒に1号鉄塔を目指して冒険の旅に出ることに決めました。
「鉄塔の番号を逆に辿って、1号鉄塔まで行ったら何が待ち受けているのだろう?」
★おすすめポイント★
・以前、NHK総合テレビでは祝日の午前中に地味だけれど心に残るような映画を放送していました。
この映画はその時に観ただけで、録画もしていなかったので記憶もあやふやなのですが、なぜか忘れることが出来ないでいる映画です。
原作本はいまだに読むことも無く、それでいていつも身近に置いてあります。
最近、映画のパンフレットを手に入れましたので、それに助けられながら書いてみようかと思い立ちました。
・電車に乗っているとよく鉄塔が見えますが、その度に“あれは女鉄塔?男鉄塔?”と反射的に考えてしまいます。
映画の中でその形による違いの説明があり、パンフレットにも2ページにわたって写真入りで詳しく載っているのですが、何だか自分の中ではまだ理解出来ていません。
その分、これからも同じような感覚でいくのだろうと思い、それはそれでいいような気がしています。
★あらすじの続き★
少年2人は最初はワクワク気分で旅に出ます。
畑や野原、川を越えて、鉄塔に着く度にその真下に潰した王冠を埋めていきます。
途中で暁の自転車がパンクし、知らない土地で心細くもなって、23号鉄塔で暁は家に帰ってしまいます。
見晴は野宿をしながらも1号鉄塔をめざしますが、4号鉄塔の前で鉄塔パトロールの巡視員に止められてしまいます。
そのまま夏休みが終わり、見晴は長崎に引越し1年が過ぎて・・・。
中学生になって初めての夏休み、父の急死の知らせが届きます。
父の葬儀のために帰った見晴は葬儀を抜け出して4号鉄塔から1号鉄塔へ向かいます。
・鉄塔の下に埋める王冠を潰している印象的なシーンがありましたが、それが出発直前なのか、それとも父親と幸せだった頃に一緒に潰したのか、は曖昧な記憶になっています。
・ラストシーンも曖昧なのですが・・・
1号鉄塔に辿り着いたものの変電所の囲いで中に入れません。
すぐ近くにその変電所に出入りする人たちが利用する食堂があり、その前に停まっているトラックの荷台に潜り込みます。
その車からか食堂からか高校野球の放送の音が聴こえていて、真夏の昼下がりの静かな時間が過ぎていきます。
・少年2人が、暑い陽射しの下、畑や田んぼの中をひたすら自転車や歩きで進むシーンが続きます。
特に大きな事件があるわけではありませんが、未知の世界に向かっていくワクワク感と不安感とが観ている側にも伝わってきます。
・パンフレットの中で、評論家の川本三郎さんは
「子どもにも喪失感がある。子どもが時々一人で遠くへ出かけたくなるのは未知のものを見たいからではなく、失ったものにもう一度会いたいからだ。それは出かけて行く旅ではなく、帰って行く旅だ。懐かしい、幸福な時へと。」(ここでは、父親と母親が仲良かったあの頃、父親が電気の不思議を教えてくれたあの頃、のこと)
なるほどと思いながらも、当時私は違った観方をしていました。
大人の世界でさえ思うようにならないことが多いのですから、幼い彼には心に抱えたものの大きさ、重さは相当のものだったろうと・・・。
鉄塔を辿っていくということは、少しでもその閉塞感から抜け出したかったのではないか、何か答えのようなものが欲しかったのではないかと想像しました。
もちろん本人にはハッキリした意識は無かったでしょうが・・・。
達成することで、何かが見えなくてもほんの少しでもおとなに近づいていて、開放感なども味わえたらいいと彼らの旅を追いかけながら思っていました。
・見晴役の子が後の“電車男”の伊藤淳史さんであることをわりと最近に知りました。
“立派なおとなになって・・・”と何だかホッとしたものです。
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