Wの悲劇
「Wの悲劇」 製作:1984年/角川春樹事務所
監督:澤井信一郎
原作:夏樹静子
脚本:荒井晴彦、澤井信一郎
撮影:仙元誠三
音楽:久石譲
主題歌:「Woman"Wの悲劇"より」(作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂)
キャスト:薬師丸ひろ子(三田静香)
三田佳子(羽鳥翔)
世良公則 (森口昭夫)
三田村邦彦(五代淳)
高木美保(菊地かおり)
清水紘治(嶺田秀夫)
仲谷昇(堂原良造)
蜷川幸雄(安部幸雄)
★一言コメント★
ひたむきでみずみずしい、等身大に見える薬師丸ひろ子さんがいます。
★あらすじ★
三田静香(薬師丸ひろ子)は、女優を目指す劇団“海”の研究生。
次回公演の『Wの悲劇』の準主役オーディションに臨みましたが、ライバルのかおり(高木美保)が選ばれます。
大阪公演の幕が開けたその夜、静香は劇団の看板女優・翔(三田佳子)の部屋で彼女のパトロン・堂原良造が死んでいる現場を目撃してしまいます。
そのスキャンダルを肩代わりすることで、静香はかおりに代わって役を手に入れますが・・・。
★おすすめポイント★
・原作のストーリーを舞台劇にして、それに関わる人々の姿を描くという二重構造になっています。
・舞台女優をめざしている女の子が先輩の俳優(三田村邦彦)と初めて一夜を共にするシーンから始まります。
当時のアイドル女優としてはショッキングなシーンと言うことになりますが、暗いブルーの画面に二人の会話だけが聴こえるという静かなシーンとなっています。
女優になるためにと形から入ったけれども、好きになろうと懸命に努力したり精一杯の背伸びをする姿が見られます。
・この作品はけっこう夜や早朝のシーンが多くて、画面が綺麗なブルーの時が多いことを今回初めて気がつきました。
ドラマ「ハゲタカ」や「相棒」で印象的だったこの撮影方法が、こんなに以前に使われていたのかと驚きました。
後半の舞台部分でも印象的に使われています。
撮影の仙元誠三さんもずいぶんいろいろな作品で見かけていた名前です。
音楽は久石譲さん、押さえた音楽で虫の音や走る音などが自然に聴こえてきます。
・ちなみに舞台構成は、演出家として出演もしている蜷川幸雄さん。
稽古風景などは、現実によく言われている灰皿が飛んできかねない勢いでした。
蜷川さん、昔々俳優をしていてNHKの夕方の帯ドラマで薬品会社のセールスマン役をやっていたことをなぜか覚えています。
・オーディションに落ちた静香を昭夫(世良公則)が飲みに誘い、語ったやはり俳優を目指していた友人の話。
"一番の友人の死に、もう一人の自分が出てきてその場でどんな悲しみの演技をしたらいいかと考えていた"
そんな自分が嫌で俳優を辞めたと言います。
実際は昭夫自身のことなのですが、このセリフは今もことあるごとに思い出してしまいます。
俳優としてではなくても、ふだんの生活の中でも有りえることですから・・・。
・昭夫の部屋での二人。
オーディションに落ちたショックの静香とそんな状況では嫌だと言う昭夫、二人の延々と続くかと思える電灯のひもの引っ張りあい・・・。
その後にも印象的なシーンが多いのですが、当時澤井監督はアイドルを上手に起用し魅力的に撮ることが出来る監督と言われていました。
「野菊の墓」(1981年)の松田聖子さんなどがその代表らしいです。
昭夫からオーディションの合格祝いとして贈られた花束で、彼を打ちつけているうちに彼にも花にも申し訳ない気持ちへと表情が変わっていくシーン。
ラスト近く、何もかも失って部屋を出て行く時に、天井に残ったポスターを何度か飛び上がって取ろうとし、あきらめて振り返りながら出て行くシーン。
どのシーンも何気ないのに印象的で、薬師丸ひろ子という女優さんを大事に大事に撮っているなあと改めて感じ入っています。
・三田佳子さんが看板女優役ですが、はまり役で凄い迫力です。
かおりを降ろして、スキャンダルを起こした(実は身代わりだけれど)静香を抜擢するための舞台上からのスタッフへの説得シーンなど・・・。
反面、静香の記者会見を見て、自分がそこにいたはず本当はそこにいたかったと言う一面なども・・・。
・それに並んで薬師丸さんの記者会見のシーンも・・・。
完全に身代わりを演じているはずなのに、迫真の演技なのに、そのまま彼女でした。
記者の間には梨元さんたち芸能レポーターが勢ぞろいで、重要な役を演じていました。
・スキャンダルを知った昭夫がつい静香を打ってしまって"顔をぶたないで、私女優なんだから・・・"と言うセリフは当時けっこう有名になりました。
・高木美保さん、綺麗で気が強そうで大役を得たのが納得できる演技の上手さだと今更に思いました。
当時専門家から薬師丸さん以上に評価を受けていたことを覚えています。
最近は女優としての仕事が少なくて残念です。
・静香が舞台に成功してのカーテンコールのシーン。
当時も今も、何だか長すぎる気がするのは私だけでしょうか。
感動するのは観客で、その様子を延々と見せられても、とつい考えてしまいます。
先日のテレビでちょっとだけ観た「恋する妊婦」への感想と同じになりました。
舞台は直接以外には伝わりにくいものだと思います。
・静香が、真相を知ったかおりに襲われるシーン・・・
花束を抱えた昭夫が間に入って刺されるシーンは、真上からの撮影でした。
階段上で3人が絡んで、報道陣やファンがいったん押し寄せてきて潮のように引いていって・・・
これこそ舞台劇のような気がしました。
・昭夫が二人で住もうと言ったアパートに向かった静香。
傷が治った昭夫がもう一度やり直そうと・・・
“自分の人生ちゃんと生きてなくちゃ、舞台の上のどんな役もちゃんと生きられない”
“自分を見つめているもう一人の自分が厄介だけれど、でも付き合っていくわ”
“もう一人の自分が泣いちゃいけないって、ここは笑った方がいいって・・・”
甘えて中途半端な自分が許せない静香。
それをわかって見送る昭夫。
大きな挫折を乗り越えて前向いていこうという姿に、公開時にはすでに青春とは縁の無い世代になっていましたが泣かされました。
・笑顔で去ろうとする静香に、拍手を送る昭夫。
振り返って万感の思いでワンピースのスカートを広げてひざまずく格好をする静香。
泣き笑いの表情がストップモーションとなって・・・
エンドクレジットが流れて、薬師丸さんの伸びやかで透明感のある歌声が流れます。
「ザ・ベストテン」(TBSテレビ)で、襟の大きなワンピースで歌う姿に聡明さを感じさせた彼女も、今や「三丁目の夕日」(2005年)の愛情豊かなお母さんです。
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