夕凪の街 桜の国
「夕凪の街 桜の国」 公開:2007年
監督:佐々部清
原作:こうの史代
脚本:国井桂、佐々部清
音楽:村松崇継
出演:田中麗奈 麻生久美子 吉沢悠 中越典子
伊崎充則 金井勇太 藤村志保 堺正章
★一言コメント★
その綺麗なタイトルに魅かれて、内容もわからないままにずっと気になっていた作品です。
終戦記念日の真夜中(16日)にテレビ放映がありました。
★あらすじ★
原爆投下から13年後の広島。
そこに暮らす平野皆実(麻生久美子)は、職場の同僚・打越(吉沢悠)に愛を告白されます。
しかし、彼女は原爆で父と妹を失い、自分が生き残っているという事が深い心の傷になっていました。
そんな彼女の想いを打越は優しく包み込みますが、やがて皆実に原爆症の症状が……。
そして、半世紀後。
今は東京で暮らす皆実の弟・旭(堺正章)は、家族に内緒で広島の旅に出ます。
そんな父を心配する娘の七波(田中麗奈)が、ひょんなことから友人の利根東子(中越典子)と共に、後を追って広島へ向かうことになって・・・。
★感じたまま・・・の感想★
平成16年度文化庁メディア芸術マンガ部門大賞・第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した、こうの史代の原作漫画を映像化。
過去と現在の二つの時代を背景に、二人の女性による二つの物語が描かれています。
麻生久美子を検索
原爆症発症の不安を抱えながらも、原爆で自分が生き延びたことの負い目から愛に臆病にならざるを得ない皆実(麻生久美子)。
「何かを見て綺麗だなって思ったり、楽しいなあと思うたんびに、どこからか声が聞こえてくるような気がするんよ。
だって、うちは誰かに死ねばいい、って思われた。
それなのにこうして生き延びとる、そうじゃろ」
この後に、一番怖いことは
「死ねばいいって思われるような人間に自分が本当になっとる。
それに自分が気がついてしまうことなんよ。
じゃけん、自分は幸せになったらいけんような気がする」と・・・。
そして彼女は、打越(吉沢悠)や弟(伊崎充則)の前で静かに息を引き取ります。
「原爆を落とした人は私を見て、やった!また1人殺せた!とちゃんと思うてくれとるかな」と言い残して・・・。
そして「二人とも、長生きしいね」と・・・。
それは、妹が彼女の背中で言い残した言葉でもありました。
「誰かに死ねばいいと思われてる」とは胸をえぐられるような言葉です。
否応無く飲み込まれてしまっただけなのに、その思いを抱いて逝ってしまう彼女が何とも辛いですね。
何とも淡々とした映画です。
戦後13年、傷を負った人たちが、静かに暮らしていく姿が描かれています。
泣き叫んだりするわけではない、でも明るさの中にも影を背負っています。
声高で戦争反対や核兵器廃絶を叫んではいません。
だからこそ、訴えるものがある作品になっていると思えます。
被爆当時の様子は、絵や写真で出てきますが、それについ目をそらしてしまった自分に恥ずかしさを感じます。
麻生さん、ドラマの「時効警察 」シリーズ(2006、7年)や先月テレビ放映された「ぼくたちと駐在さんの700日戦争 」(2008年)の明るいキャラクターとはまったく違っていました。
上の言葉は、文字にすると強そうに感じられますが、すべてを受け入れているようなとても穏やかで、だからこそよけいに切ないものがありました。
芯の強さを持ちながら、たおやかで儚げで、一瞬ファンタジーでも観ているような錯覚を覚えたりもしました。
後半では、定年を迎えて広島に向かった皆実の弟・旭(堺正章)を、その娘・七波(田中麗奈)が後を追いかけていきます。
それは心配したようなボケたためではなく、姉のゆかりの人々を訪ねての鎮魂の旅でした。
たまたま七波の同行者となったのは幼馴染の東子(中越典子)で、弟が別れ話を切り出している相手でもあります。
明るく元気いっぱいに見える七波も、祖母(藤村志保)と母をも原爆症で亡くしたこと、満開の桜並木のそばのアパートで暮らした頃を忘れられず、医者になった弟と共に、やはり原爆の影を背負っています。
父の後を追ったことで自分のルーツを知り、それを静かに受け入れるようになります。
伝わるものは、平和の尊さ、生きることの喜びであり、二人の女性を通して描かれた、家族愛、兄弟愛、恋愛など様々な愛の形でした。
家族の歴史の中に、連綿と女性たちに引き継がれてきた髪留めが印象に残ります。
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