「舟を編む」三浦しをん著
三浦しをんさんの著書「舟を編む」(光文社)。
これまで三浦さんの名は知っていても、どんなものを書いているのか、まったくわからないまま初めて読むことになりました。
映画化され、あの松田龍平さんがこれまでのイメージと違って、生真面目で純情、辞書作り一筋の青年を演じていると知ったからですが・・・。
それに、タイトルに興味が沸いて、とかなりミーハーな気分での読書でした。
映画の方はまだ観ていません。
映画のスチール写真を見ているせいもあって、松田さんを想像して読めました。
それにしても、主人公の馬締光也は魅力的ですね。
揺るぎないほど自分の世界があって、世間的には変人と呼ばれている人物ですが、読んでいて気持ちが良かったです。
10年以上も辞書作りに携わる周囲の人たちも含めてですが・・・。
辞書作りの大変さもよくわかって、これからは辞書や言葉そのものに対する気持ちが変わっていきそうです。
編集部にスカウトされるとき、“島”の説明にあらゆる角度から考えて言葉を紡ぎ出していく馬締・・・。
その登場シーンから惹き込まれてしまって、ワクワク感が止まりませんでした。
馬締の魅力もですが、言葉の意味の多様さ、奥深さに・・・。
言語学者・松本先生を中心にして、どんな機会にもあらゆる言葉を拾っていく用例採集カードも印象的でした。
食事のときに観ているテレビなどからさえも、気になる言葉を拾っていく・・・気持ちは常にそこにあるんですね。
羨ましいほどの、個の世界に見えてしまいます。
もちろんそこから辞書という大勢の人のためになる財産が生まれるのですが・・・。
辞書が出来るまでには気が遠くなる作業があるんですね。
用例採集カードなどからの言葉選び、言語学の教授らとの交渉、他辞書との兼ね合い、決められたページにおさめていく作業、延々と繰り返される校正刷りのチェックなどなど・・・。
何より、その間に何度か企画の中止の話があり、それを乗り越えていく姿にただただ頭が下がる思いがしました。
もう、何としても続けていくのには一人一人の情熱でしかない、辞書に対する想い、言葉に対する想い、それしかない、そう思えました。
意外だったのは、各章で中心人物が変わることでしたね。
(一)は、辞書に人生を捧げ、定年を迎える荒木。馬締をスカウトします。
(二)は、馬締。全体の主人公ですから、ここのページが一番長いです。
(三)は、途中で宣伝広告部に異動する西岡。前の章までは辞書の編集部に向かない軽い人物に見せて、実は彼なりのスタンスが魅力的です。
(四)は、異動してきた岸辺。最初は疑問を感じていたが、しだいに理解し、参加していきます。
(五)は、みんなの努力が結んでの大団円です。
板前で、馬締が恋をして後に結婚する香具矢は思ったほど登場しないですね。
映画の方の宮﨑あおいさんのイメージが強すぎたかもしれません。
馬締も最初の頃の茫洋としていてコミュニケーションが苦手な青年から、中年になるとさすがに優秀な責任者になっていますね。
当然と言えば当然ですが、ちょっと寂しい気がしたのは、こちらの勝手です。
読み終わって、つくづく言葉は大切にしたい、そう思えた本でした。
よろしかったら、こちらもどうぞ。
⇒ 言葉の味、話の味~辞書は、鏡 「舟を編む」三浦しをん著
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