群ようこ著「れんげ荘」「働かないの れんげ荘物語」を読む
45歳で早期退職、トイレ・シャワー共同の家賃3万円のアパートで、貯金を取り崩して月10万円の暮らし・・・。
そんな内容に惹かれて読みました。
有名広告代理店での高給を投げ捨てての無職生活。
得意先の接待などで仕事は深夜までおよび、有能にこなせばこなすほどに仕事は膨れ上がり、その上、社内に蔓延する妬みや嫉みに表面的な付き合い、と・・・。
そんな仕事に嫌気がさして、すっぱり会社をやめてしまったキョウコ。
月10万円で30数年間暮らせるだけの貯金を持って・・・。
「れんげ荘」(ハルキ文庫)には、その1年が書かれています。
安アパートを紹介し、面倒を見てくれる不動産屋さん。
隣人の年配の女性・クマガイさん。
旅人として不在が多いコナツさん。
途中で、田舎に帰ってしまうサイトウくん。
そんな個性的で優しいご近所さんとの交流が描かれています。
絶妙な距離感が気持ちいいですね。
日々の暮らしの中、特にクマガイさんとの付き合いが多いのですが、それでも自然なかたちでお互いの気持ちを推し量っていて、その空気感が素敵です。
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もうひとりキョウコには大切な人がいます。
友人のマユさん。
キョウコの行動に理解を見せながらも、冷静にアドバイスなどをしてくれます。
無職生活に慣れないでいるキョウコに
“あなたは真面目に働いてきたように、真面目に無職をしようとしている”と・・・。
本人は夫の浮気で離婚を考えている最中なのに、友人として大人な意見をしてくれるんですね。
確かに、キョウコは働かずに無職にこだわっているはずなのに、朝はきちんと起き、予定がないことに不安を感じたりしています。
これでは慣れるまでに相当時間が必要でしょうね。
この本の中で、かなり重要な部分を占めているのが、母親との確執です。
良妻賢母型で、自分の正しさを信じて疑わないような性格の母に、子供の頃からその意に沿わないで生きてきたキョウコ。
彼女の考え方、生き方は母親抜きでは語れないようです。
幸い、今回の一人暮らしは、理解のある兄の家族の助けもあって、成し遂げられているとも言えますが・・・。
この本で気になったのは、有り余る時間をどう過ごしたか、が書かれていなかったことです。
梅雨時期のカビやナメクジ、夏の蚊、冬の寒さ、などに悪戦苦闘する様子は描かれてはいます。
生活を切り詰めても健康を考えて、オーガニック食品にこだわっています。
大半を散歩と読書で過ごしているのだろうと予想はしていますが、図書館は老人にナンパされて敬遠した以降出てきませんでしたね。
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どこか物足りなさを感じていたところに続編があることを知りました。
「働かないの れんげ荘物語」(角川春樹事務所)です。
キョウコは48歳になっています。
東日本大震災の描写から始まって、正直重たい気持ちで読み始めました。
れんげ荘はボロだったのが逆に幸いしたのか、倒れることもなく無事でした。
これを機会にテレビを捨て、ラジオを聴く生活になりますが、読書生活には入っていたようです。
“募金はした。ボランティアなどすぐ行動を起こせる人は立派だと思う。自分は、あれこれ考えて自分を納得させなければ体が動かないタイプなので・・・”
彼女の思いにちょっと救われましたね。
被災地にいながら、何もできず何もしなかったので・・・。
毎週「被災地からの声」(NHK)を複雑な思いで観続けています。
3年の間に、網戸や窓に取り付けるクーラーも入れてもらって、かなり快適な生活になっていました。
コナツさんは相変わらず旅人。
クマガイさんは、前作で倒れて入院し、息子がいたことが判明、退院後もれんげ荘暮らし。
相変わらずおしゃれで、映画を観たりしての一人行動。
この人の生活費(年金?)はどこからでているのかわからないままなのは、こちらが見過ごししているだけでしょうか。
長い間空いていた部屋に、若くて長身のモデルのようなチユキさんが入居してきます。
亡き祖父と立ち退きで入っていたマンションを友人に貸し、本人はリヤカーを引いて引越し。
後に友人に夜逃げされるが、キョウコのアドバイスでマンションは不動産屋さんに依頼することに。
若くても感性は共通のようで、つい距離を縮め世話を焼きたくなるキョウコはしばしば自制することも・・・。
キョウコ自身は、最初はすっきりした部屋を望んでいたのに、最近は部屋を飾りたいと思うようになっています。
これは生活の余裕か、それとも退歩なのか、ちょっと意地悪な感想を持ちました。
喫茶店で見かけたグループの刺繍をやってみたくなり、友人マユ(離婚回避したようす)の友人サトコさんから材料や道具、指導までしてもらうことになります。
サトコさんは、途中でつらくなるのを見越して、完璧を目指さないことまでアドバイス。
この本に登場する人はみんな素晴らしい。
いい人ばかり、というのも気になりますが、それはそれで、やはり読んでいて気持ちがいいですね。
母親との確執も、兄の家族との交流も、変わらず。
予想以上の悪戦苦闘の刺繍(タペストリー)も途中ながらも達成感があり、なぜか床が抜けそうな二階に興味があるチユキさんのエピソードもあり、で小説は終わります。
リアルに追求していけば、答えが出ない母親との確執、やがて来るクマガイさんの死、キョウコ自身の老後のことなど、あって当然なのだけれど、あくまでファンタジーのように読めてしまったのがよかったですね。
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