伊坂幸太郎著「仙台ぐらし」を読む
伊坂幸太郎さんは、こちら仙台在住の作家であることは有名ですね。
やはり地元ということで、特別な思いがあり、著書を読んだり、原作の映画をよく観ています。
正直を言えば、最近は著書のほうはご無沙汰ばかりしていますが・・・。
日常が描かれているかと思っていたら、奇想天外な展開になっていく、というかたちには付いていけなくなっていました。
やはり、若者向けかな、と思って・・・。
映画化されたものは好きですね。
「あひると鴨のコインロッカー」(2007年)とか、「ゴールデンスランバー」(2010年)とか。
{ポテチ」(2012年)もそうでしたね。
この「仙台ぐらし」(集英社文庫)は、東日本大震災のことを書いていることを知って、手に取りました。
今、エッセイやハウツーものを選ぶときには、必ず発行年を確認することにしています。
あのときから、人は意識が変わったと思っていますから、書く人も、読む人も・・・。
“被災地にいて、被災しなかった者”の、当時も今も感じる複雑な思いが書かれています。
私の中にずっとあった滓のようなものを初めて吐き出した、正確には吐き出してもらったのですが、そんな気がしました。
ちょっと気持ちが楽になった気がしたものです。
何もしていないこちらと、そう言いながらも被災地を訪れていたような伊坂さんとでは、だいぶ違いますが・・・。
伊坂さんは、よく喫茶店などで原稿を書いているようです。
地震のときもそうだったんですね。
あのとき、被害が無くても、何もする気になれないというのは、誰も同じでした。
“今やっていることをやり続けなさい”
罪悪感も後ろめたさもあるけど、とにかく今やっていることをやり続けなさい。
確かにはっきりそう思ったわけではないですが、淡々と、ある意味必死に日常生活をしていたことを思い出しますね。
この本には短編小説「ブックモビール」が収録されています。
被災地を舞台にしていますが、伊坂ワールドは健在です。
とは言え、映画監督の “市街地は無事だから、少しほっとするね” に “建物が無事で、光景が変わっていなければ、被害はないと思うんですか” と、ある人物が反発するシーンには複雑な思いがしました。
映画監督にも、それに反発する人にも、どちらの思いもわかりますから・・・。
一番共感したのは、伊坂さんが極度の心配性だということですね。
こんな人気作家でも、こちらとまったく変わりないんだ、という思いです。
震災の前には宮城県沖地震が間近に迫るニュースにおびえ、体調が悪いと不安になり、アパートの隣の夫婦喧嘩に最悪の状況を想像しまう。
子どもの頃からのようで、作家になるべくしてなったようなものですね。
北朝鮮のミサイルへの恐怖についても触れていましたが、つい最近は水爆実験に成功したというニュースがありました。
伊坂さんもやはり気になっているかもしれませんね。
この本には“映画化が多すぎる”というテーマもありました。
タイトルだけ読むと、不愉快に思っているのかなと確かに思ったものですが、あとがきでそれについて弁解しています。
それにも何となく心配性の伊坂さんらしさを感じて、その細かさに自分を重ねて、ちょっと笑ってしまいました。
この本には、楽しいエピソードも書かれていて、そちらのほうが多いです。
“見知らぬ知人が多すぎる” では、声をかけられてつい自意識過剰になってしまったり、というエピソードなどが書かれています。
それでも、エッセイは苦手らしくて、基本的に書かないと決めたようです。
貴重なエッセイ本かもしれません。
それにしても、エッセイって “エッセイに見せかけた作り話” でもいいんですね。
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