堺雅人著「文・堺雅人②すこやかな日々」を読む
「文・堺雅人②すこやかな日々」(文藝春秋)は、堺さんが2009年から2013年まで雑誌に執筆していたものです。
ちょうど(と言っていいのか)真ん中に東日本大震災がありました。
本書の真ん中には、堺さんの被災者に向けての、悼み祈る思いに溢れた手書きのメッセージがあります。
その後には、数ページの彼の写真、1枚だけが笑っています。
どの配慮にも、意味を感じながら読み進めたものです。
当時、堺さんは北海道の根室でテレビドラマ(「南極大陸」)の撮影をしていたようです。
“こちらがわとあちらがわ、どっちの現実に身をおけばいいのか、よくわからない”
“こちら側の地面をしっかりふみしめ、あちらがわのことを、精一杯おもう”
堺さんがそう書いてくれたことで、被災地にいながら被災者ではない自分のことを思い起こしたものです。
重い話から書き出してしまいましたが、この本の魅力は知的でいながら軽妙洒脱な文章に溢れているということでしょうね。
作品に取り組むたびに、とことん突き詰めて研究しての役作りをする、その姿勢は前から知られていたことですが、本当に演じることが好きで、学ぶことが好きで、ということもわかります。
真面目で聡明なだけではなく、ちょっと肩の力を抜いたユーモアもあって、それが読んでいて気持ちがいいですね。
サラッと読めることで、ともすれば浅く感じられますが、かなり含蓄に富んでいる内容になっていると思います。
一番の特徴は、不思議なほどに、ひらがなで通していることでしょう。
小学生でも読めるのではないでしょうか。
先に書いた “こちらがわと・・・ ” が例になります。
私は大人になってから、これほどにひらがなの多い本を初めて読みました。
柔らかなひらがなの表現で、演じること、役について考えること、身近なもの些細なことに向ける目やこだわりなど、書き綴られていて、最後まで読み飽きることはありませんでした。
特に好きなのは “モゴモゴばなし” と題した文章です。
坪内稔典さんのエッセイ「俳句的人間 短歌的人間」(岩波書店)を取り上げています。
中では、長嶋茂雄-野村克也のふたつのタイプに分類しています。
主観的で情熱的、ときには自己陶酔的な長嶋さんタイプが「短歌的人間」。
客観的で冷静、自己をも茶化す道化的精神をもっている野村さんタイプが「俳句的人間」。
堺さんはそれを読んで、どんどん派生させていきます。
曲線-直線、華-実、夢-現実、感情-理性・・・。
セリフまわしには、“うたう” と “つきさす” があり、“堺雅人は八対二のわりあいで俳句俳優” などと遊んでいます。
そのうちに、俳句は “詩歌というクネクネしたジャンルの、まっすぐなほう” とか、“クネクネした文学のうち、さらにモゴモゴしている詩歌のなかで、わりにスッキリしたもの” とか・・・。
遊びに遊んでいるというか、脱線しているというか。
最後は、モゴモゴと結んでいます。
たまたま手に入った本でしたが、楽しすぎて、良い時間を持てました。
大河ドラマ「真田丸」の真田信繁役をどれだけの思いで演じているか、それも想像できて、いっそう楽しみになりました。
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