映画「海よりもまだ深く」
映画「海よりもまだ深く」を観てきました。
もちろん、樹木希林さん目当てです。
テレビ出演で見かける機会が多く、そのたたずまい、その言葉に惹かれることが多かったですから・・・。
やはり、その自然体の姿(に見える演技)が素敵でしたね。
普通にいる、それでいて、積み重ねてきた人間的な深さとかがにじみ出てくる・・・。
樹木さんが出てくるシーンは、魅入られるようにして?観入っていました。
テレビの「寺内貫太郎一家」(1974年・TBS系)で、“ジュリー” と叫んでいた樹木さんも好きですが、今の姿を見ると、豊かな時間が経過したんだなあと思えましたね。
大人になりきれないダメ息子役が、阿部寛さん。
15年前に受賞歴がある小説家ですが、その後は鳴かず飛ばず。
いい大人が言い訳やごまかしばかり、見栄を張ることで何とか生きているような男。
阿部さんが濃い顔(失礼!)なので、よけいにそのうざさを強烈に感じます。
おそらく、この嫌悪感はこちらにも同じような部分が少しはあるからかもしれませんね。
そんな息子を愛情を持って見守る母親役が樹木さん。
息子に語る言葉の一つ一つがなぜか愚痴に聞こえないのが、不思議に心地いいですね。
過去を引きずり、夢ばかり追い続けている息子に・・・
“なんで男は今を愛せないのかねえ” と語りかけます。
余談ですが・・・
“日本人には、今日がない”
亡くなった俳優の天本英世さんの言葉を思い出したものです。
昨日のこと、明日のこと、一年後のことをくよくよ考えるばかりで、今日がない日本人を嘆き、今日だけを生きるスペイン民族を愛していたのが天本さんでした。
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阿部さんの姉役は、小林聡美さん。
母子と同じように、姉弟のやりとりも、はっきりした物言いをしながらも刺々しくなく、過剰に反応して喧嘩に、とはならない。
淡々とした、そんな家族の描き方が好きですね。
個人的には、恋愛モノと同様に家族モノが苦手なので・・・。
母親の一人住まい、団地という狭い空間も大きな意味があるのでしょうね。
住人も建物も明らかに年を経てきているし、閉塞感もあります。
登場シーンは少ないですが、クラシック好きの橋爪功さんの暮らしもどこか窮屈さを感じさせました。
台風の夜、団地で別れた妻(真木よう子)と息子(吉澤太陽)も加わって一晩を過ごすことになって・・・。
それぞれが心にあることを何となく話し合い、何も起きるわけではない時間が過ぎていく。
台風の中、父子が公園でちょっとした冒険をするけれども・・・。
解放感とか、カタルシスを味わえるのは、そのシーンくらいですね。
台風って怖いものには違いはなくても、子どもの頃から非日常な感覚があり、ワクワク感がありましたよね。
台風が去った朝、団地を出る三人。
阿部さんの表情がすっきりしているのが、はっきりわかります。
それでなくても、台風一過は気持ちがいいですし・・・。
劇的に変わることはないけれども、少しは前進していけそうな、そんな三人と見送る母親でした。
特に変わらない日常が又始まるのですね。
ハナレグミの音楽が印象的な映画でした。
映画を観ていて、音楽に関心が行くことはほとんどなかったのですが・・・。
苦手な家族モノというイメージを明るく振り切ってくれる、とても素敵で、心地いい音楽でした。
タイトルの「海よりもまだ深く」は、テレサ・テンさんの「別れの予感」の詩の一部からとったものなんですね。
劇中でも、ラジオから流れていました。
歌詞は、母親の想い、息子の想い、それとも別れた妻子の想いなのでしょうか。
ラジオの使われ方が好きですね。
最近、ラジオ派になったものですから・・・。
何気なく母親の寂しさを紛らしていることが感じられるし、台風が近づくニュースが流れて、ざわざわした感覚に襲われたり・・・。
大事な時間がゆっくり漂うように感じます。
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特に大きな展開もなく、淡々としていて、小津調?とか思えたりもしますが、やはり印象は違いますね。
もちろん時代が違いますが、舞台とか伝わる生活感は違いますものね。
それにしても、是枝裕和監督は、テレビのインタビューで、“一番自分らしさが出ている作品” と言っていたのが印象的でした。
この作品、クスッと笑えるシーンが多かったのですが、それは隣の中年女性二人連れに任せて、こちらはゆったりと楽しめましたね。
“みんながなりたかった大人になれるわけじゃない”
“幸せってのはね、何かを諦めないと手にできないもんなのよ”
印象的な言葉が残っています。
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