ドラマ「今朝の秋」
ドラマ「今朝の秋」1987年/NHK
演出:深町幸男
脚本:山田太一
音楽:武満徹
出演:笠智衆、杉浦直樹、杉村春子、倍賞美津子、樹木希林、加藤嘉、名古屋章
*プラハ国際テレビ祭大賞、第14回放送文化基金賞本賞、毎日芸術賞受賞
<あらすじ>
蓼科で一人暮らしをしている宮島鉱造(笠智衆)。
一人息子の隆一(杉浦直樹)ががんを患い余命わずかなことを知って、東京の病院に駆けつけます。
がんであることを知らされず、疑いを持っている息子にかける言葉も無く、ただ静かにそばにいる鉱造。
やがて、20数年前に別れたタキ(杉村春子)とも否応無く会うことに・・・。
元家族が集う中、隠されていた病状を知って落胆する隆一に、鉱造は大胆な提案をします。
「冬構え」(山田太一脚本)に続いて、図書館から借りてきたものの、観るのをためらっていました。
「冬構え」は、生きる希望が垣間見えるラストですから・・・。
でも、個人的には段違いにこちらのほうが好きになりましたね。
どちらも笠さんの魅力に変わりはありませんが・・・。
演出も映像も、もちろん出演者も、小津安二郎監督の作品を思い起こさせて、魅入ってしまいました。
特に、武満徹さんの音楽が素晴らしいですね。
どうしても重たくなりかねない内容なのに、常に蓼科の空気を感じさせるような爽やかさに溢れています。
時には明るく軽やかで、事の重大さを忘れてしまいそうでした。
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ストーリーは単純に見えて、登場人物が抱えているものはそうではありません。
タキはかつて別に好きな男性が出来て鉱造と離婚をし、隆一の妻・悦子(倍賞美津子)も同じように離婚をしたいと思っています。
離婚の申し出を取り消したことも、隆一が自分の病状を疑うひとつになっていました。
悦子が娘・紀代子(貴倉良子)に、形だけの一家団欒をしようとする行動を非難されて、
“長くない人を放っておくのと、生きてる間に一家団欒やっちゃおうというのと、どっちがいい?” “ほかに道はない。だったら、多少でも人に優しくできる方を選んだ方がいいでしょ”
という賠償さんに、何とも生々しさを感じたものです。
隆一の病気をきっかけに、20数年ぶりに会う鉱造とタキ、離婚を取りあえず思いとどまった悦子、娘の紀代子、そしてタキが営む小料理屋の使用人で妹分・美代(樹木希林)が蓼科の家に集まります。
蓼科へ行きたいという隆一を、鉱造が病院から連れ出したのでした。
“多少の前後はあっても、みんな死ぬんだ”
50代の息子へ訥々と語る80代の口下手な父親に、笑いながら反論する隆一には涙が溢れています。
“錯覚しそうだなあ、家族って良いなあって”
隆一の複雑な思いが胸に来ますね。
隆一が歌いだし、追いかけてみんなで歌う「恋の季節」(ピンキーとキラーズ)。
タキが家を出て行った後、鉱造がよく歌っていた歌であり、隆一も歌っていた歌。
そこだけ時代を感じて、突然現実に引き戻された感覚がしたものです。
そこまで、蓼科の風景、それぞれのしみじみとした静かな会話、そして音楽、小津調で、どれも澄んだものを感じさせて進行してきたところに、泥臭い(失礼)空気が突然現れてきた感じがしました。
違和感ではなく、現実感ですね。
生々しいと言えば、隆一がベッドの上で頻繁に汗を拭いているシーン、悦子が長い髪を掻き揚げるシーンが多いのが気になりました。
脚本上のものか、演出上のものか、意図的なものだとは思いますが・・・。
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樹木希林さんがタキの店の使用人で何かと世話をする役で出演しています。
こまごまと動きまわり、おせっかいで賑やかな役は当時は定番だったことを思い出しました。
今は杉村さんの立ち居地になりましたね。
隆一を見送った後の秋めいた朝、鉱造とタキ、というよりも笠さんと杉村さんのしみじみとした語り合い、そのたたずまいが素敵です。
お互いにまた寄り添えそうなのに、“もう少し、意地を張らせて” と言い、“来月また来ようかな” と言ってしまうタキがまた素敵ですね。
自然な形で、二人の関係が続いていく気配が感じられます。
タキも去り、秋景色の中にひとり佇む鉱造。
「今朝の秋」は俳句の季語(立秋の日の朝。秋の気配を発見した感慨)なんですね。
それにしても、常に穏やかな表情を絶やさない笠さんが何とも素敵です。
先日、山田太一さん脚本のドラマ「五年目のひとり」(渡辺謙主演・テレビ朝日)を観ました。
東日本大震災後の話ですが、「時は立ちどまらない」(2014年・テレビ朝日)と同様に、特に感動できませんでした。
こちら(仙台)という地域的なものもあるのかもしれませんが・・・。
同じ山田作品でも、30年前の作品の方に感動するというのは、年齢的なものが大きいのでしょうか。
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