穂村弘著「蚊がいる」を読む
穂村弘さんの作品を読んだのは初めてです。
勢古浩爾さんの「定年後に読みたい文庫100冊」 (草思社文庫)で紹介されていて、興味を持ちました。
こだわりが強く、弾けていて意外な内容が読める、というようなことでしたから・・・。
図書館で探したところ、紹介された「絶叫委員会」「整形前夜」ではなく、こちら「蚊がいる」のほうに関心が向いてしまいました。
凝った表紙で、何よりその色彩の派手さが目を引きます。
ひと目で横尾忠則さんだとわかりましたが・・・。
日々の何気ないことを深く掘り下げていて、ウイットに富み、時には究極のこだわりをみせながら、つい納得させられる文章を書き綴っているエッセイ集です。
著者には、平凡で何も無い、何も思わない、感じない日々など無いのだろうなあ、と思わせる文章の数々。
それは、幸せであり、逆にあまりに細かすぎて、忙しくて面倒くさい(笑)日々でもあるような気がしないでもないですね。
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一番笑えたのは、“三つの試練”。
日本のサラリーマンが好きだと言われる、飲み会・ゴルフ・カラオケ。
会社員時代、ゴルフは最初に “行かない!” と宣言して避けられたが、飲み会からカラオケへの流れのエピソードが面白いですね。
まず、酔った人間と酔えない人間(著者)の温度差が語られます。
その流れでのカラオケでは、たくさんの鈴がついた腕輪をはめなければならなくなり・・・
“誰かが歌っている間中手拍子、そして終わったら拍手。つまり、店内には常に無数の鈴の音が響き続けているのである。雪原をゆくトロイカのようにしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃん。数時間後には店を出たとたん、ふらふらして、ぺたんとアスファルトに手をついてしまった。酔ったのか?いや、後半はウーロン茶しか飲んでない。これは・・・、三半規管をやられたのだ。”(本文より引用)
読書をしていて、声を出して笑ったのはいつ以来でしょう。
ツボにはまってしまい、何度読んでも笑ってしまう。
かと思えば、“永久保存用” と題したエピソード。
生産中止とか廃盤、限定という言葉に弱い著者。
生産中止になった愛用の万年筆を床に落として凹ませてしまった。
後悔しながらも、マニアの人の三つ(使う用・予備・永久保存用)購入するという話に納得したりしていた。
そんなときに、雑誌の短歌コーナー(著者は歌人でもある)に送られてきた短歌に、どきっとする。
“どうせ死ぬ こんなオシャレな雑貨やらインテリアやら永遠めいて 陣崎草子”
自分自身は腹をくくれていない。永久保存用の自分を買いそうになる。「どうせ死ぬ」のなかにこそ真の永遠があるのに・・・。
「どうせ死ぬ」パワーを与えよ。万年筆の凹みにびくびくしない熱い心を。
そう結んでいます。
私も、この短歌にはどきっとしました。
しばらくは、テレビから溢れ出て来るCMや番組提供の情報を、遠い目をして観てしまいそうです。
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そのほかにも、
最高の桜(=最高の今)を捉えたいのに捉えられない話 “桜”、
体調が悪いときに、選択肢の有無で起きる数々の出来事 “体調” 、
創作者デビューの年齢のラインを上げて行く話 “清張ライン、伊能ライン” などなど・・・。
最後に、又吉直樹さんとの対談が掲載されています。
病気療養中なので、どうしても読書は枡野俊明さんなどの心身に優しい本(?)に限られたりしていたのですが、こういう本も楽しいですね。
事細かなつぶやきに、共感できるものが多かったですし、こんなふうにつぶやけたら素敵だな、とも思えましたし・・・。
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